高齢者の多くは自身が若く健常だった頃の感覚と、実際の今の肉体の感覚に差異がある状態で暮らしています。
そのため、運動行動を失敗したり、覚えられていたはずのことを忘れてしまったり、生活上でさまざまなミスが発生しがちです。さらに認知症が進めば、脳機能の低下によってより本人の混乱やもどかしさは募っていきます。
介護をする家族にとっては迷惑さや憤りを感じさせてしまうかもしれません。しかし、ままならない自分の身体や記憶力に誰よりも困り、自尊心が傷ついているのは高齢者本人です。
一見、好き勝手に動いて感情的になっているように見えても、それらは脳機能が低下しているために感情や行動に抑制ができないからであり、世話をしている家族を困らせる目的のものではありません。
認知症になっている本人の自尊心を尊重した言動を心掛けることで、感情的にならないコミュニケーションやふれあいがしやすくなります。
「こんなことも分からないの」「ボケちゃったねえ」という、軽い気持ちの嫌味や赤ちゃん扱いは、言う側の想像以上に高齢者の自尊心を傷つけます。また良かれと思って直接手助けしても、「手伝ってもらわないとできなかった」事実そのものが高齢者を落ち込ませてしまうのです。
何かができず困っている様子なら、それとなく手順を書いた紙を後日置いておく、手助けや確認を求めやすいように近くにいる、「それでもいいけど、こうするのもいいよ」と提案に留めるなど、気持ちに寄り添う対処がベターです。